色鮮やかに紅葉のように


「佐助?何処へ行くのだ?」
「あ、旦那。ちょっと薬草とりに。じゃあ。」
 
 
 
 そういって屋敷を後にしたのはどれほど前だっただろうか。
 珍しく仕事の無かった佐助が薬草の補充のため出かけようとしたところを、幸村に目ざとく見つけられた。
 以前にも薬草採りに行く前に見つけられ、一緒に行くと言い出して、仕方なく連れて行ったものの、幸村は山中で迷子になってしまい、結局、主を探すのだけで日が暮れた。
 予定していた薬草は全く採取できなかったため、挨拶もお粗末に屋敷を抜けてきた。
 
 どんなに気をつけて歩いても落ち葉の上では足音を完全に消せない。しかし、見事なまでの紅と山吹に彩られた秋の絨毯を踏みしめて歩く。
 佐助は、見慣れた山の木々を眺めながら、ゆったりとした気分で歩いた。
「綺麗だけど・・・、一人で紅葉狩りってのも、意外とつまんないもんだな・・・」
 花見だ月見だ、と、何かにつけて団子の食べられる行事を見つけては楽しそうにしている主を思い浮かべてクスリと笑う。
 早いとこ帰って、この山の紅葉の見える縁側で旦那と一緒にお茶でも飲みたい、そんな気分になって薬草の生い茂る、植生園へと急いだ。
 
 
 人知れず場所にあるこの植生園は、屋敷のまん前にある、さほど高くない山の頂上近くに佐助がこっそり作ったものだった。
 傷や打撲を治す薬から、風邪や熱を下げる薬、また、暗殺に使うような毒草と果実など、様々な植物を植えていた。それらを一通り採取すると、持ってきていた籠はほぼ満杯になっていた。
「こんなもんかな。」
 秋の夕暮れは早い。
 先ほど昼飯を頂いたばかりだというのに、もう陽は頼りなく、翳り始めていた。
 
 山を降りようとしたその時だった。
 遠くで、ガサガサという音と共になにやら叫んでいる声が聞こえる。
 その聞き覚えのある声音に、もしや、と耳をそばだてると、案の定、声の主は幸村だった。
「佐助ぇ〜〜〜?どこにおるか〜〜〜?!」
 いくら屋敷の目の前で、しかも武田の領地だとは言っても、木々に身を隠す間者が居ないとも限らない。
 そんな大声で所在を示しながら歩く主に、佐助は焦った。
「・・・ったく!」
 呼びかけの声は聴こえたものの、植生園の場所が誰かにバレては元も子もない。
 佐助は呼びかけには答えず、声のするほうへと急いで駆け下りた。
 
 ガザガサガサっ・・・
 声を上げながら歩いていた幸村の近くで、別の者の気配が感じられ、
「佐助っ?」
呼んでいた人物かと、嬉々として周りを伺うが、気配は幸村を確認すると、しん、と静まり返ってしまった。
 幸村の様子を伺うような気配に、しまった、と思う。
 この山は屋敷のすぐ前にあるが、言い返せば幸村や佐助を狙う間者たちが隠れられる場所でもある。
 目と鼻の先とはいえ、山に入るときは十分に注意するようにと佐助が言っていたのを思い出す。
 今の己は丸腰だ。
 持っているもので武器になりそうなものといえば、手にしている包みの中に入っている2人分の団子の串しか思いつかなかった。
 幸村は気配をうかがいながら、音のした方をじぃっと睨み付けていると、突然上方からぶら下がってきたものがあった。
「ばぁっ!!!」
「っっっっっ!!!!!」
「おっと!」
 その人物は、咄嗟に拳を繰り出した幸村の攻撃を難なく交わして地面に降り立ち、幸村の手から滑り落ちた包みと茶筒が地面に転がる前に、軽やかに受け止めた。
「さ、佐助ぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「はいはい。落し物。」
 怒っている表情の幸村に、佐助はやれやれ、と手を広げる。
「あのね、旦那。前にも言ったでしょ?山でそんな大声出さないの。」
「だ、だからといって脅かすことは無いだろう?!」
 口を尖らせて拗ねる主の頭をポンポンと撫でながら
「この気配が俺だったから良かったものの、他の忍者だったらどうするの、そんな丸腰で。」
「・・・っ・・・!」
 先ほど思い出していたその言葉を再びその口から聞かせられて、幸村は己の無用心さを後悔する。
「・・・・・・すまぬ・・・。」
 もとより素直な性格の幸村だ。申し訳なさそうな表情で謝罪の言葉を口にしたが、このようなことは2回目だ。素直なだけにその性格は直情的で、忘れてしまうのか何なのか、注意したことさえすっぽりと守らないことが多々あるのも事実だ。その度に苦労をしている佐助である。
「・・・・・・わかってくれたらいいんだけど・・・武田の領地内で旦那を死なせちゃあ、俺もやりきれないからね。」
「・・・某は死なぬ。」
「そんなのわかんないでしょ。俺が敵だったら間違いなく絶好の機会だったんだからね。」
「・・・佐助が山に来ていなければ、このようなところには来ぬし・・・。」
 肩を抱くようにして促されて、山を降りる。
「・・・・・・やれやれ。俺のせいですか。・・・ん?ところで旦那、何持ってるの?」
 口では文句を言いつつもその表情から反省していることが見て取れたため、追求は辞めて、佐助は幸村が先ほど落としそうになった包みを、改めて見やる。恐らく中身は団子だろう。
「・・・お前が薬草を採りに行くといったから、縁側で山を見ておったら・・・紅葉が綺麗で・・・お前と一緒に紅葉を見ながら食べようと思っておったのだ。」
「え・・・」
 不貞腐れた表情で、幸村がボソボソと話す。
 つまり。佐助がそう思っていたように、幸村も佐助と紅葉を観たいと思っていたということなのだろうか。
 だとしたら、これって、以心伝心っていうこと?!
 知らずにニヤけて、佐助の心が躍る。
「旦那、俺も思ってたよ。早く屋敷に帰って、旦那と一緒に縁側で紅葉観ながら茶でも飲みたいってね。」
「・・・某は山の中で茶をしたかったのだ。お前なら絶景の場所を知っておるだろう?」
 屋敷からでは毎日観ているし、他のものも見ている紅葉ではないか、とブツブツ呟く。
「旦那・・・!それって俺と二人きりで、秘密の紅葉が見たいって言うこと?!」
「・・・か、顔がニヤけておるぞ、佐助!
「あ、待ってよ旦那!」
 屋敷の門が見えるところまで下ってきた幸村は、佐助を振り返ることなく逃げるように走って門をくぐった。
 佐助もその後を追う。
 
「佐助」
「ん?」
 淹れなおした暖かいお茶をすすりながら、幸村が問うた。
「お前はいろんなところへ行っておるだろう。そこでは綺麗な景色とか、紅葉とか、あるのか。」
 遠征という形でしかあまり各地へ行くことの無い幸村は、たびたび佐助の話を聞きたがる。
 あの国はどうだとか、何が美味い、だとか。仕事の報告としての話だけではなく。
「そうだね、色々綺麗な場所は他国にもたくさんあるけど」
 幸村はそんな時は決まって目を輝かせて聞いているのだ。まるで、御伽ばなしを聞く子供のように。
 今もそんな表情で話の続きを待っている幸村を見て、佐助は目を細めた。
 そんなに可愛い顔して、いったい旦那いくつ?
 佐助は幸村にばれ無いように苦笑をもらした。
「今まで・・・旦那と一緒に観る甲斐の景色以上に、綺麗なものは無かったよ。」
 里に居た時も、初めてこの屋敷に来た時も、色が無かった。
 幸村に始めて会ったときから、景色というものが色づいて見えた。
「佐助?」
 わけがわからぬ、と佐助を見上げる。
「甲斐の、この屋敷から見る景色が一番ってことだよ、旦那。」
「そうか。」
 まんざらでもなさそうな表情で幸村はうなづいた。
 恐らく、さすがお館様の治める甲斐の国だ、とでも思っているんだろうなぁ、と横目で見て そっと苦笑のため息をついた佐助だった。
 
 
 
 
 
 
見つめる山は、萌えるように紅い。
貴方に色を貰った、俺の心も。
今はきっと萌えているように紅いと思うよ。
 
ねぇ、旦那・・・?
 
 
 
 
 
終  
 
 
 
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思えば花も色あせていたよ、君に会うまでは♪・・・って感じ?笑
 
初佐幸だよ!ワホーィ!(何このテンション)
ある日の一日、みたいな感じで・・・破廉恥要素が全く無くてすみません・・・
(あれ、コレって謝る事なのかな・・・?!)
 
なんか、この二人は季節ネタがものすごい沸いてくるんだよね・・・。
 
書けずじまいだったけど、花火ネタも書きたかったなぁ。
まぁ来年もサイト続けてて、佐幸萌えしてたら来年書こうかなっとw
 
 
 
ここまでお読みいただきありがとうございましたぁっ!!
 
お粗末様でしたv  
2006.11.27