静 寂



「・・・旦那、風邪引くよ。」
 後ろからふわりと上着をかけられてそのまま抱きしめられ、幸村はすぐ近くに佐助が
居たことに気づいた。
 手にしていた杯は既に空っぽで乾いている。
 上着に焚き染められた香の優しい香りが鼻をくすぐった。
「・・・佐助。」
「何考えてたの、旦那?」
「・・・特に、何も・・・。月と、雪を見ておった・・・。」
 回された腕に顔をうずめると、その腕の温かさにうっとりと目を閉じた。 
 明かりも灯していない縁側だが、途切れる雲の間から覗く月の照らす雪で、庭の木々も
ハッキリと識別できるほどに明るい。
 木の枝に積もった雪が、静かな音を立てて落ちた。
 雪が落ちて露になった花から、ロウバイの甘い香りが漂う。
「旦那、誕生日、おめでとう・・・。」
「!」
 幸村は目を見開いて佐助を振り返った。
「・・・知っておったのか?」
 問いには答えず、ニコリと笑みを返すのみ。
 あまりにも優しく見つめてくる瞳に、幸村は顔を赤らめて目を逸らした。
「・・・か・・・体が冷えた。酒を・・・。」
「お酒はもうダメ。」
 言いながら、幸村が手にしていた杯を取り上げてそのまま手首を絡め取った。
「寒いなら温めてあげるよ、ね、旦那?」
「あっ・・・さ、佐助っ・・・!」
 ニコリと微笑む佐助に、いつものことながら抵抗も忘れる幸村は、そのまま溺れる
ように快楽へと沈んでいった。


 再び降りだした柔らかな粉雪に気づくはずも無いであろう。

 しんしんと降り積もる雪が、つかの間の平和を貪る恋人達を優しく包み込んでいたことも。

 静かで、それでいて確かな、揺るぎの無い心。

 全ては静寂の中に・・・。
 
 
 
 
 
 
 終  
 
 
 
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この時代、誕生日を祝う風習なんてあったのかな〜と思いつつ書いてみたりw
 
 
短すぎる短文ですが、ここまでお読みいただきありがとうございましたv
 
 
 
 
2007/2/2
 
 
 
 
 
 
 
 
 
画面を閉じてお戻りくだされ!




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