喉がからからに渇いて目が覚めた。 ぼんやりとする頭で見慣れない風景とゴツゴツと固いベッドの感触に顔をしかめながら寝返りを打とうとして、隣に居る人物に気づき覚醒した。 いつの間に眠ってしまっていたのだろう。 隣で眠っている餡の様子を伺うと、相変わらず息が荒く、浅い。 眉間に皺が寄っていて表情は苦しそうなままで、額には汗が流れている。 菌は顔を曇らせると、重く軋む身体を無理やり起こし、洞穴の入り口へと向かった。 外へ出ると辺りはすっかり暗くなっていた。 あれほど激しく振っていた雨が今はぱったりと止んでいて、黒い雲の合間から細い月が覗いている。 先ほどは大雨で視界が悪かったこともあり、良く見てなかった辺りをぐるりと見回した。 すぐ近くに川幅の大きな川が流れている。川の向こうは同じような岩肌を持った崖が小さな森を挟んでそびえていた。菌達の居る洞穴の左右には川沿いに地面があり、右側には森へと続いているのか、緑が見える。 しんと静まった夜に微かに聞こえる虫の声すらも、水かさの増した川の荒く流れる音に阻まれていた。 「・・・・・・誰かー!!!」 自分はともかく、家族の多い餡のことだ。食や辛が探してはいないだろうか、偶然にこの付近の上空を飛んではいないだろうかと、菌はありったけの声を出して空へ向かって叫んでみたが、声は掠れて誰に届くことも無く川音に飲み込まれただけだった。 大きな声を出したことでクラクラと眩暈を覚え、菌は喉を潤そうと川辺へと歩んだが川の流れが速く、水は濁っていて飲めそうにない。夜の森にはあまり入りたくなかったが、夜露と雨水を集めるしかないと、菌は左に広がる森へと進んだ。 葉っぱに付いた雫を幾らか飲むと、ズキズキと痛んでいた頭がマシになった。 恐らく、怪我で熱を出しているであろう餡にも水を飲ませなければ、と菌は大きな葉っぱを見つけて小さな雫を少しずつ集めた。 一口くらいの水をようやく集め慎重に歩いていた菌だが、平らで薄っぺらい葉っぱは安定が悪く、少しバランスを崩しただけで水が零れ落ちた。力は入れていないが、手の触れている葉の端から破れてきている。 菌はしばらくじっと立ち止まって思案したあと、意を決したように葉の水を口に含んだ。 そして、急いで洞穴へと戻ると餡の傍らに座り込み、一瞬戸惑った後に震える手で餡の口を開くと唇を重ねた。 「・・・ん」 喉を鳴らして、意識のない餡がそれを飲み込んだ。 自身の唇を手の甲で軽く拭き、餡の濡れた唇の端から飲み込みきれなかった水が一筋零れ落ちたのを見て、顔が熱くなったが、そんな場合ではない、と言い聞かせるようにして菌は頭を振った。 相変わらず息が浅く、苦しそうな表情をしている餡の額に手を触れてみると、予想していた通り熱があった。触れた額の熱が温かに感じられて、濡れたままの服がべっとり肌に張り付いて不快感のみならず、体が冷やされているのに気づいた。急に寒気を覚え始めた菌は、固く絞って広げてあった白衣がほぼ乾いているのを確認すると餡の身体にかぶせた。 餡を運んだ時に洞穴の入り口辺りで脱ぎ捨てた餡のマントを拾い上げるが、コチラはまだ湿気を十分に含んでいて、菌は軽く握って絞ると、早く乾くように広げて地面に置いた。 「・・・バ・・・イキンマン・・・?」 餡のマントに気を取られていた菌は、眠っているままだと思っていた餡に呼びかけられてビクリと振り返り、横たわる餡の隣へ駆け寄り、座り込んだ。様子を伺うと、餡は言葉を発するのも大仕事のようで荒い息の合間にポツリポツリと呟くその声は掠れている。目の焦点はどこか合っていない。 「・・・アンパンマン、気づいたのか?」 さ迷っていた視線が菌の声のする方へぼんやりと向けられた。 「・・・み・・・ず、もっと・・・ある?」 震える手を伸ばして来たのを一度しっかりと握ってから、そっと胸の上において 「わかったのだ、ちょっと待ってて・・・!」 言うと、菌は洞穴を後にした。 菌は、求められるままに水を運んだ。意識が朦朧としている餡は何度か往復しているうちにまた眠りについてしまったようだ。その表情は依然として苦しそうなままで、菌の心を締め付けた。 眠る餡の傍らでぼんやりと餡を見つめていた菌だったが、じわりと涙が浮かんできて外へと出た。 今、何時だろう。 時間すらわからない。空は真っ暗で、立ち込めていた雲は綺麗になくなっていた。月が細く鋭く光っている。 崖を登れないかと岩肌を見上げたが、とても登れそうな高さには見えなかった。岩肌がところどころ突起していてデコボコで、体力も筋力も自信のない菌には決心できるものではなかった。 背中にある小さな羽根も、退化していて飛ぶことはできない。 ・・・・・・このまま、どうなるんだろう。 混沌としてまとまらない思考を必死に働かせた。 失血が多く、骨折も何箇所かしているだろう餡は一刻も早く医者に見せたほうがいいだろう。 自分も今はなんともないが、ここでは食料すらも満足に揃わなさそうだ。いつまでこのままか分からないけれど、もしこのままならこの場で倒れることになるんだろう。 怪我をしたとき、困ったとき、名前を呼べば直ぐに飛んで来てくれる人物は、今は居ない。 「俺の、せいだ・・・。」 一刻を争う事態だというのに、月はどこまでも穏やかで、耳に響くのは川の音だけ。 心はこんなにも焦って混乱しているのに、夜の闇が全てを吸収してしまうかのようだ。 涙が静かに、次から次へと頬を伝う。 静かに光を降り注ぐ月を、菌は見上げた。 「・・・お願い。餡を・・・助けて・・・助けて・・・」 消え入るような声で呟く。 だが何が変わるだろう。手を胸の前で組み、月を見上げて祈りにも似た願いを口にしてもどうにもならない。 しばらくそのまま月を見上げていたが、ため息をつくと重い身体を引きずるようにして洞穴へと戻った。 何だかとっても疲れたのだ・・・。 菌は餡の傍らに身を投げ出すと、そのまま目を閉じ、意識を手放した。 続 ***************************************************** あ〜〜〜・・・・・・文章が・・・うーん。思うように書けないっつーか、言葉が出てこない、みたいな! ボキャブラリーのなさにうなだれつつ・・・でも更新しちゃうんだけどね。(ぇw さーて、今回の目玉はやっぱり口移しですよ・・・!(悶) エロ要素は全然ないけどね。 最近、私ってキスシーン(唇でも、額とかほっぺでも)大好物だ・・・!と気づいたw 直前も直後も真っ最中も、全部好きだ・・・! フフ・・・魅惑的よのぅ、キスシーン・・・(変態キターw) そして菌が愛しい・・・笑 でもそんな菌の愛しさを欠片も書けてないような気が・・・orz 最後のくだりがまるでフランダ○スの犬のようです・・・!笑 ていうか、菌を泣かすのが楽し・・・ゲフンゲフン!! さて、まだ続きます。 ここまでお読みいただきありがとうございました。 よろしければ続きも読んでやってくだせぇ・・・! 紅月 渉 2006.10.09 |