I wish.... 2


 
―――翌日。
「アンパンマン、これお願い!」
「うん。この辺で大丈夫かな?」
「うん!ありがとう!」
 ジリジリと照りつける太陽にもまけず、子供たちの笑い声が広場に響く。
 放課後、すぐ前にある学校からは先生たちも一緒になって飾りを作ったり短冊に願い事を書いたり、賑わっていた。
「皆ー、おやつ持ってきたわよ〜!」
 明るい声が広場に響くと、アンパンマン号からバタコと食、辛が荷物を持って降りてきた。
 子供たちが歓声を上げて一斉にバタコさんを囲み、焼きたてのクッキーをもらいに行く。
「バタコさん。食に辛も!」
「よー、餡。手伝いに来たぜー!」
 辛がクッキーを配りながら手を振ってみせる。
「私も居ますよ。」
 見慣れた長身の男が、バタコから冷えたお茶を受け取り餡の方へ歩み寄ってきた。
「あれ、おむすびまん!いつ帰ってきたの?今日?」
「ええ、今さっきです。はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
 手にしていたお茶を手渡される。餡はひんやりしたそのボトルを頬にくっつけて涼んだ。
「だいぶサマになってきましたね。」
 風に舞ってヒラヒラと回っている飾りと、サラサラと鳴る葉を見上げて楽しそうに言った。
 飯はいつも旅で居ないが、イベントがあると必ずといっていいほど顔を見せる。
 人当たりのよさと包み込むような優しさを持つ飯は、皆から優しいお兄さんとして慕われていて街ではちょっとした人気者だ。
 背が高く、3人の中で一番背の高い食よりもさらに頭一個分高い。
 旅を続けるためか知識も豊富で、聞かせてくれる話もとても面白かった。
「もう明日が当日だしね。短冊も皆書き終えたんじゃないかな。」
 言いながら、餡は昨日のことを思い出していた。
 菌は結局まだ現れていない。
「よ、餡。お疲れ。」
 テント下でクッキーを配り終えた食が笹の下まで来ると、食う?と手にしていたクッキーの一袋を手渡す。
「ありがとう。」
 あまり甘いものを好む餡ではなかったが、菌に会えたら渡そうと促されるままに受け取った。
「しかし暑いな。うんざりするぜ。」
「食、地が出てるよ。」
 営業中なのに、と食の口にした言葉と言い草に、餡が笑う。
 暑さが苦手な食は手でパタパタと顔を仰ぎながら子供たちを伺う。
 テントの下で、クッキーとともに出されたジュースに夢中だ。
「聴こえなきゃ問題ないだろ。」
「まーね。」
「やれやれ。どこで誰が見ているかわかりませんよ?」
 呆れた口調で飯が懐から取り出した扇子を食に渡した。
「人のこと言えねーだろ。」
 食は扇子を受け取って、拗ねたように飯をにらんだ。
 手に変わって扇子を開き、扇ぐ。
「誰のことでしょう?」
 飯はわざとらしくとぼけた。
 餡はそんな2人のやり取りにクスリと笑った。
「この分だと明日は晴れそうだね。」
 3人は空を仰いだ。西の空がかすかに橙が混じり始めているが、空の片隅にも黒い雲はなくカラっと晴れ上がっている。
「そうですね。きっと晴れますよ。」
「天気予報も晴れだったし。」
 飾り付けられた笹を眺めていた餡が、ふと気づいたように言う。
「食、短冊書いた?」
「・・・・・・まだ。お前は?」
  「僕もまだだよ。何書こうかなって。」
「・・・迷うこと無いんじゃねぇの?」
 少しだけ言いにくそうに、目を逸らして言った食に、餡は戸惑う。
「え・・・。」
 恐らく、食は菌のことを指して言っているのだろう。
 餡が書くべきかどうか、迷っていたことそのものであり、まだ答えは出ていなかった。
 餡も食も、例えばサンタクロースや、今回の七夕の短冊のご利益を素直に信じてしまうほどに幼くはない。
「・・・俺は特に願い事なんてないし。そう思うと別に書かなくてもいいやと思い始めてる。」
「そう。書いても書かなくても、だよね・・・。」
 餡も食も、本当にそうなりたいのであればどうすればいいのかなんて、十分に分かっていた。
 ゆえに、紙切れ一枚に託して願いが叶ってしまうなんて、あり得ないとさえ考えていた。
 あえて紙切れ一枚に決意を新たに記す、という風にも考えられるのだが。
 呟くように返した餡に、先ほどからずっと聞き役に徹していた飯が呆れた顔で2人を見下ろした。
「夢の無いことを言いますね。」
 飯は餡に向き直るとにっこりと笑って言う。
「餡、ご利益はありますよ。去年私が試してますから。」
「・・・え?!」
 真意を確かめたくて、飯をまじまじと見つめた。
 飯のにこやかなポーカーフェイスからは何も読み取れないが、ぐるぐると頭の中で考えがめぐった。
 多分、考えがあっていれば去年の七夕に飯が短冊に書いたのは・・・。
「・・・お前何書いたんだよ?」
 餡から遅れること数秒、のろのろと顔を上げて飯に詰め寄る食の顔は、心なしか紅く染まっている。
「そんなのは秘密ですよ。」
 詰められた距離だけじりじりと避けるように逃げる飯は面白そうに笑ってしれっと答えた。
 そんな仲のいい2人の様子を餡も笑いながら見ていた。
 
 
 
 一方、隣接する森の中。
 先ほどから木々を背にして広場からは見えないように隠れながら移動する影があった。
「はひ〜。ちょっと疲れたのだ・・・。」
 その人物は菌であった。
 変装もしておらず、黒のTシャツに白衣を羽織った格好だ。
 広場の様子を伺うと、誰もコチラに気づいては居ない。
 菌は手にしていた短冊を見て、前日ドキンちゃんとのやり取りを思い出していた。  
 
 商店街での買い物を終えて城へ帰った菌。
 買ってきたものを片付けていると、ドキンちゃんが現れた。
 ドキンちゃんは目ざとく、菌が先ほど商店街でもらった短冊を見つけた。
「あー、何これ1枚しかないの〜?!菌ずる〜い!!!」
「え?あ、ああ、それなら、お、俺様は要らないからあげるのだ」
 要らないと言った時に、脳裏に餡が思い浮かんだ。
「えー?!やーよこんな色!もっと可愛い色がいいわ!水色とかピンクとか!それに5枚くらい欲しいの!」
「え、1人1枚なんじゃ・・・?」
「うるさいわねー!私は5枚欲しいの!もらってきてよ!」
「え、でも・・・。」
「バイキンマン〜〜〜?!」
 こうなると手がつけられない。さっさと承諾してしまう方が楽だった。
「わ、わかったのだ・・・。」
 
 そうして広場まで偵察に来てみたわけだが、このままのこのこ出て行っては昨日餡に言われたとおりに自分が短冊を持ってきたのだと思われてしまう。短冊には何も書いていないが。
 それに、楽しそうな声が響く飾りつけの様子を見ていると、高いところの飾り付けや短冊は、餡が子供たちを抱えて一緒にとび、好きなところに付けさせているようだった。 
 木々に阻まれて太陽の光は木漏れ日になっているが、森の中は熱気にまみれていて暑い。
 じっとりとした汗が額を、背中を、落ちていくのが分かった。
 遠くから見える子供たちの笑顔は明るく、対して自分はこんなところで隠れながら様子を伺っている、そんな姿にだんだん惨めな気分になってくる。
 いっそ七夕祭りなんか無ければ、ドキンちゃんに怒鳴られることも無かっただろうし、子供たちの楽しそうな笑顔も目の当たりにしなくて良かっただろうし、子供たちの相手をして屈託なく笑っている餡を見ることも無かっただろうし。
 何故だろう。
 菌は餡が笑っているのを見るととても腹が立った。
 七夕祭りなんかめちゃくちゃになればいいのだ・・・!
 そう思うと、停めてあったバイキンUFOに乗り込んだ。
 
 
 
 食に飯に、辛も加わって、再び飾りつけの手伝いをしつつ談笑していたその時。
 隣接する森から、ガサガサと草木を分ける乱暴な音が聞こえ、反射的に振り返った。
「はっひふっへほ〜!」
 お決まりのセリフとともに現れたのは、バイキンUFOに乗ったバイキンマン。
「!」
「バイキンマン!」
「た、七夕なんてぶち壊してやるのだっ。え〜い!」
 そういうと、UFOから伸びてきた触手が笹に向かって突進してきた。
 広場には子供たちの悲鳴が響く。
「やめろ、バイキンマン!」
 叫んだのは辛。
 それを合図のように、餡、食、辛は飛んで触手を抑えにかかった。
 だが、4本目に出てきた触手によって、掴まれた笹がぐらりと傾く。
「危ないっ!くっ!」
「きゃー!!」
「お、おむすびまん・・・!」
 笹の根元で、倒れないように、折れないようにとっさに笹を支えたのは飯だった。
 笹の下で子供たちが居たのだ。
 3メートルにもなる大きな笹に、飾りつけも加わってその重さは相当なものだろう。
「皆、早くテントの方に・・・!」
 飯の声に我に返った子供たちが、一斉にテントの方へ引き上げていく。
「くっそ〜、お邪魔虫っ!」
「飯っ!!」
 食の悲痛な叫びが響く。
 菌が4本目の触手で飯を攻撃しようとしたのだ。
 だが、UFOが急降下したとき、フラリとその機体が傾いた。
 UFOはあっけなく墜落し、ブースがぽっかりと開いて投げ出されるような感じで菌が転がって出てきた。
 不思議そうにその様を見ていた餡だったが、菌は倒れたまま動かない。
「・・・バイキンマン?!」
 倒れた菌のぐったりとした様子に、餡が慌てて駆け寄る。
「うう・・・あ、頭が痛いのだ・・・。」
「え?」
 心なしか頬の赤い菌の額に手を触れてみると、少し熱があるようだった。
「うわ、すごい熱気・・・。これクーラーとかついてないのかよ?」
 UFOの様子を見に行った辛が、つぶやいた。
 つまり、締め切ったブースの中で熱気にもまれていたのだ。
 ぐったりとしていて熱があり、締め切られたブース内で操縦していたいう行為を踏まえると、その症状は一目瞭然だった。
「・・・・・・熱射病だね。大丈夫?」
 上半身を起こされてひざの上に乗せられ、いつもなら嫌がるだろう菌はぐったりしている。
 餡は呆れて溜息をついた。自分に無頓着な菌に少しいら立った。
 まだ熱もそれほど高くなく、初期だろうと思われる症状に内心ほっとしながら。
 先ほど飯に手渡されたボトルのお茶を、その頬に当ててやると、閉じていた瞼がピクりと動いた。
「うぅ・・・。」
「ほら、お茶飲んで。飲める?」
 頬に当てていたお茶のボトルを開封し口に当ててやると、菌は飲み干す勢いで飲んだ。
 少しぬるくなっていたそれは水分を欲していた体には十分だったが、頭痛が激しくてまだ起き上がれない。
「こんなに暑いのに水分持たないで出かけるなんて・・・。」
「バカだな。」
 覗き込んでいた辛が言い放つ。
「おまえさー、悪戯やめれば?」
 笹を元通りに立て直した食が、呆れきった口調で言った。
「これが欲しかったんだろ?」
 食が菌に差し出したのは短冊だった。それも、キレイな色の短冊が5枚。
 菌は信じられないようにそれを見ていた。
「え、短冊?」
 餡が不思議そうに食と菌を見比べた。
 菌は、発せられない言葉の代わりに何故?と顔に書いて食を見る。
「どうせドキンに言われたんだろ。たくさん欲しいって。昨日配達途中に会ったんだよ。」
 そうだったのか、と一同が納得していると、がやがやと人が集まりだした。
「あー、僕このまま菌を送って・・・。」
 言い終わらないうちに、餡の腕を押しのけてよろよろと立ち上がった菌は、食から短冊を受け取るとUFOへと向かう。
「・・・一人で帰れるの?」
 後を追った餡が、UFOに乗り込む菌を心配そうに気遣うが、話すのも辛いのか菌は黙ったまま。
「これ、持って行きなよ。」
 餡は手にしていたお茶と、クッキーの包みを手渡した。
「・・・あ・・・。」
 菌は熱で潤む瞳を向けて何か言いたそうにしたが、うまく言葉が出てこない上に人が集まって来ていた。
 餡はその人だかりに内心舌打ちしつつ、菌に頷き優しく微笑みかける。
「安静にね。」
 ほら早く、と促してUFOを操縦させた。
「ば、バイバイキン・・・。」
 弱々しく呟いて、フラフラと蛇行しながらUFOは飛んでいった。
   
 
 
 
 




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キター!(゜∀゜*)
来ましたよ、奥さん!
設定では書いてあったと思うのですが、記念すべき、飯食初登場です!!!!(嬉)
どうでしょうか・・・!? ど、ドキドキ。。。
そう、うちでは食は辛ラブでも菌ラブでもなくて、飯ラブなんですよねーv
今回登場の飯食、そしてメインカプの餡菌。
実は日参してるサイトさんでの餡菌と飯食に惚れ抜いたことから、この餡菌サイトが始まりました。
いつもこっそりイラストを拝見して萌え補給させて頂いています、ポップデキッチュの柚木ひこ様、
(私の頭の中での餡菌は、コチラのイラストのような2人のイメージなのですv)
そして、柚木様のサイト内に展示されている超ステキ飯食小説の生みの親である真木うさぎ様。
(飯食の雰囲気もサイコーですが、文章めちゃくちゃ上手いんですよ!!尊敬してます・・・!)
もー、とってもとーっても大好きな飯食です!
だから、餡菌小説を書き始めたときも、食は飯食でしか考えられなくて・・・!
知らない人居たらGO!!ですよ〜! もったいないから!
激しい萌えをいつもありがとうございます>お二方(私信飛ばすなよ/笑)
 
 
そしてちょっと自分で突っ込みw
UFOの内部を辛が暑い!といってますが、私的には顔を焼いたときのアンパンマン号の方がよっぽど熱くてヤバイと思うなぁ!笑
自分で書いててふと思ったのでしたw
 
飯は今回何気に参戦してたりしますよ!ここら辺で、ラブ要素抜けばアニメの台本にできるんじゃないかと思ったわけです。あ、うちの飯さんは梅干投げたりしてないけどね・・・笑!
投げられても困りますが・・・笑
 
菌は、打たれ強いけど身体はそんなに強くないってのが理想ですねv
 
ココまで読んで頂きありがと〜ございます!
次もよろしくで〜す♪
 
2006.7.6