夏の日

(注:このSSでは餡菌出来上がっております!)



 ジーワジーワ・・・。
 うっそうとした木々に立ち込める蝉の声が感じさせる暑さとは裏腹に、森の空気は清涼で心地よい。
 パシャン、パシャパシャ・・・。
 その森の一部、大きな木に囲まれた小さな湖に人影があった。
 手をバタつかせて飛沫をあげて虹を作る。
 そんな動作を数度繰り返し、頭までまたすっぽりと水に浸かり・・・。
 バサァッ・・・
「はー。気持ちいいのだー。」
 黒髪からポタポタと落ちる水滴を手でかき上げてカラリと晴れ渡った空を仰ぐ。
 根城である住居は、その立地からかなりの熱が篭ってしまい冷房だけではどうにもならず、加えて同居人である人物から逃げるように森へ来たのはつい先ほどのこと。
 湖のほとりには、水を求めてやってくる小鳥が羽を休ませ、水浴びをしている。
 そんな光景を眺めながら、菌はゆったりとした時間を楽しんでいた。
 まだお昼を過ぎたばかりの時間。
 いつもヤツがひょっこり現れるのはおやつの時間あたりだ。このゆったりとくつろぐ時間を邪魔をされることもないだろう。
「だいたい毎日毎日良く飽きもせず遊びに来るのだ・・・。」
 その人物を迎えるために、毎日森へと足を運ぶ自分は棚に上げて呆れたように呟く。
 昨日は切り株で読書をしていたらふいに現れた。
 その前は、木の幹にもたれて居眠りをしていたらいつの間にか隣に居た。
 いつもたいていパトロールの帰りや途中で、日が沈み始めるまでお茶をしたり、他愛の無い話や・・・甘くささやかれて押し倒される日も無きにしも非ず、で。
 そこまで考えて菌は頭をぶるぶると振って思考を振り払う。
 熱くなった顔の温度を下げようと、バシャバシャと顔を洗った。
 今日もあの赤い服で、汗をびっしょりかいて現れるのはいつごろだろうかと思っていた矢先。
 思考に沈んでいた菌は、ガサガサと草木を掻き分ける音にハッと顔を上げた。
「あ、バイキンマン、見っけ。」
「あ、アンパンマン・・・。」
 嬉しそうにニッコリ笑いかけて言うのは、先ほど自分が考えていた人物で。
 予想以上の早い登場に、菌は動揺した。
 なぜなら、安心しきって服は全部脱いでいたからだ。
 来ると分かっていれば足を水に浸す程度しかしなかったのに!
 服を、着たい・・・!
 顔の半分まで水に浸かって水際においてある服をチラチラと伺うが、菌の心情を知ってか知らずか、餡はにこやかな表情のまま近寄ってくる。
「いいね。涼しそうで。冷たくて気持ちいいね。」
 餡は水辺でしゃがむと手袋を脱いで袖を捲り上げると、手を水に付けた。パシャパシャと手を翻し、服が濡れれるのもお構いなしに顔を洗う。もっともその服は既に汗で濡れていた。
 そっと餡を見上げると、水で濡れた前髪からポタポタと雫が落ち、まばらに固まった髪の間から覗く琥珀色の瞳を伺う。
 水も滴るなんとやら。
 菌がこっそり見とれていると、顔を上げた餡と目があい、慌てて目を逸らした。
 餡はそんな菌を見てクスリと笑みを漏らす。
「バイキンマン、随分色っぽい格好してるねぇ。」
「っ!ばっ・・・!」
 菌は自身の身体を隠すように手でおおい、岸辺の餡から遠ざかった。
「逃げなくてもいいじゃない。」
 クスクスと笑いながら、餡が水を掬って飛沫を上げ、菌にかけた。
「わっ・・・こっの、餡!!」
「あはは。」
 半ばムキになってバシャバシャと水をかけ合う。
 水が飛び散るたびにキラキラと光を反射し、小さな虹がいくつもできた。
 どっさり水をかけてやろうと菌が両腕で水を掬い上げた拍子に、水の屈折も手伝って段差の良く見えない水中で、菌が足を踏み外す。急に深くなっている地形に足を取られてバランスを崩し、菌は焦って水をかいたがつかめるものは何も無く。
「うぁっ・・・!ガボ・・・!」
「バイキンマン!」
 餡は慌ててマントを脱ぎ捨てると湖に飛び込んだ。
 ほんの数メートルの距離が長く感じられて、やっとの思いでバタバタともがく腕をしっかりと掴み上げる。足の付くところまで誘導し、身体を抱きしめた。
「ゲホゲホ・・・!」
 はぁはぁと肩で息をつく菌の身体をぎゅっと抱きしめたまま、呼吸が落ち着くのを待った。
 菌も、身体を素直に預けたまま息をつく。
「・・・大丈夫?バイキンマン・・・。」
「・・・ぁ」
 身体を少し離して心配顔で瞳を覗き込んでくる餡を見返すと、そのまま口付けられた。
「んっ・・・」
 唇を吸われ、チュっと音を立てて顔を離された。
 軽く触れただけなのに、半ばうっとりとした表情になっている菌に餡は苦笑する。
「あーあ、マントも濡らせばよかったな・・・。」
「?」
 首をかしげる菌に、餡が続けた。
「そしたら飛べなくなって・・・オシゴト行けなくなるから、ゆっくり出来るから・・・。」
 ゆっくり、の部分に意味を含ませて言った餡に、菌は紅くなる。
「ね、約束しよっか。」
「・・・なんの?」
 先ほど咳き込んだせいで掠れる声を絞り出して聞き返す。
「今日の夜、森で待ち合わせ。」
 その餡の言葉に菌はますます紅くなりながらも、餡とゆっくり会いたいと思うのも本心で。
「・・・・・・・・・わ、わかったのだ。」
「え!? ホント?!」
「むぐっ・・・!」
 再びぎゅうっと抱きしめられると、2人の間にあった水がちゃぷんと揺れた。
「じゃあ、あともう少しだけ・・・。」
 このままで、と祈るように呟かれた言葉が空気に消えた。
 されるがままだった菌も、おずおずと腕を餡の背に回す。
 
 ひんやりとした水の中、しばらく2人はそのままで抱き合っていた。
 
 
 暑い、暑い、とある夏の日のお話。
 
 
 
 
 
 




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暑中お見舞い申し上げます!!
まだ間に合う?まだ間に合うかな?!暑中見舞いでもいいかなぁ?!(^^;)
 
うちにある餡菌、全部発展途上なのですが、今回はちょっと変えてみましたv
既に出来上がっている彼らを書くのはめっさ楽しかった・・・!(悶)
ああ、早くどうにかなんないかな、コイツら・・・!
・・・そうなるようにさっさと書かねばね(笑)
 
ネタ思いついた時は連日ものっそい暑い日で、室温32度は当たり前みたいな・・・!
涼しい感じにしたいと思った末のシチュでした。でも妄想中は逆にどんどん熱くなるのでちっとも涼しくならなかったよ!ぐはぁ。
コレ書いてる(清書&校正してる)今は台風の影響で涼しいですが。
実はこのネタ、元々は政幸で考えてたシチュエーションだなんてことは言わなきゃバレないだろうな!HA!笑
あ、この暑中見舞いSSのみ、期間限定(8月31日まで)でお持ち帰り可とさせていただきます〜〜。(SS持ち帰る人なんて居るのか・・・笑)
ただし、直リンクは禁止です(というか、直リンしようとるすと表示されないと思われ。)  
ココまで読んで頂きありがと〜ございましたぁぁ!
皆様、残りの夏も張り切って萌えて参りましょう!!!(ぇ)


2006.8.10