夜の覚めるとき
〜 これから 〜



 ピンポーン
「来たわね。」
 ちょうどおやつ時をすぎたころだった。
 テーブルに出来上がった料理を乗せていたバタコが玄関へと向かう。
「ただいまー。」
 返事を待たずに玄関を開けたのは、食だった。配達の帰りに待ち合わせをして、迎えにいっていたのだ。
「おかえりなさい、食。」
「バタコさーん!!」
 キャー!と甲高い声を発して、メロンとクリームがバタコに抱きつく。
「メロンパンナちゃん!クリームパンダちゃん!久しぶりねぇ。」
 バタコは飛びついてきた2人を優しく抱きしめた。
 メロンは今年10歳になる。バタコの肩よりも少し高くなった背に、成長を思わせた。長くて柔らかいうす緑の髪を高い位置で2つに結っている。可愛らしい女の子だった。
 クリームは今年7歳になったばかり、大きな目の印象的な可愛らしい男の子だった。まだ幼さの残る顔にめいっぱいの笑みを浮かべている。
「バタコさん、お世話になります。」
「ええ、ロール。」
 後ろに立つロールから、控えめにかけられた声に、バタコは柔らかく笑って頷いた。
「やぁ、久しぶりだね。メロンパンナちゃん、クリームパンダちゃん。」
「よぉ!」
「餡お兄ちゃん!辛お兄ちゃん!」
 メロンとクリームは叫んで、メロンは餡に、クリームは辛に抱きつこうとした時だった。
「餡お兄ちゃん、怪我したの?!大丈夫?!」
 抱きつく直前で止まったメロンが、目を見開いて餡の腕にかかっている包帯を見つめた。
 クリームも、辛に抱きついたまま不安な表情を見せている。
「ちょっと転んじゃったんだ。大丈夫だよ。」
 瞳を見つめてニッコリと微笑んでやると、メロンとクリームは安心したように笑った。
「あのさ〜〜、いつまでココで立ち話すんの?荷物重いんですけど。」
 未だ靴すら脱げずに、玄関のドアのまん前にたたずんでいる食が不満を漏らした。両腕には、メロンとクリームの荷物がぶら下がっている。引越しともいえる荷物だ。小さいものではなかった。
「あはは、そうね。じゃあまず部屋に案内するわ。」
 バタコが言うと辛が食の荷物の片手分を受け取り、一同はそのまま2階へと向かった。
 リビングでは菌が一人、テーブルをセッティングしながらそわそわとしていた。
 
 
 
 
 長いようで短く、短いようで長い時間が過ぎた。
 2階へ上がった面々が降りてくるまでの間、菌は落ち着かなかった。
 昨晩餡の言った言葉が気にかかる。
 覚悟・・・覚悟って・・・・・・。
 考えれば考えるほどワケが分からず逃げ出したい衝動に駆られ、ジャムが篭っているであろうラボへ駆け込もうか、それともいっそ城まで帰ってしまおうか、パーティの準備は手伝ったんだしすることは終わったよな?と勝手に解釈をして、それでも迷ってリビングのソファを立ったり座ったりしていたところに、一同がリビングへと戻ってきた。
 勢い良くドアを開けて、一番に部屋に入ってきたクリームが見慣れない人物を見つけ、固まった。
「・・・・・・誰?」
「クリーム?何してる・・・誰?」
 同じく続いたメロンも固まった。
「バイキンマンだよ。」
 後から続いてリビングに入った餡が、菌の隣に立ち肩を抱いてメロンとクリームに紹介した。
「ジャムおじさんの実験の手伝いをしてるんだ。」
「今日のお料理も手伝ってくれたのよ。」
 菌は、肩にかけられた餡の腕をやんわりと外すと、それに気付いたメロンの一瞬見せた鋭い視線に気付く。
「・・・・・・。」
「うわぁ、美味しそう!えっと、菌お兄ちゃん?」
 テーブルの料理を見ていたクリームが声を上げた。
 サンドウィッチにおにぎり、クッキーにケーキ、唐揚げやポテトサラダ、スパゲティなどなど、子供の好きそうなメニューで作られた数々の料理に目を輝かせた。
「あ・・・、よ、よろしくなのだ・・・。」
「うん!!」
 クリームが無邪気な笑顔を向けた。
 メロンの方をチラリと見やると、テーブルの料理に目を向けてケーキとクッキーを指差しながら、ロールと話をしていた。
 さっき見た鋭い視線は気のせいだろうか?それはやはり自分に向けられた・・・?
「ねぇ、菌。包帯替えて?」
 ぼんやりと考えていた菌は我に返った。
「え?どうかしたのか・・・?」
 以前は朝昼晩に包帯を替えていたが、随分回復した今は朝晩に替えるだけになっていたのだ。
「なんか、ちょっと痛くて。」
 メロンに聴こえないように、そっと耳元で呟く。
 微かに届いた息に首をひそめ、わかったのだと言い、餡と共に餡の部屋へと向かった。
 2人の後姿を、メロンがじっと見ていた。
 
 
 
 
 パーティーは、途中でジャムとドキンちゃん、飯も加わり、いっそう賑やかなものになった。
 ドキンちゃんとメロンは急速に仲良くなった。お洒落で、ロールとバタコとはまた違ったドキンちゃんのことを、メロンは気に入ったようだった。飯の人当たりが良く物好きのする笑顔に、メロンもクリームも良く懐いたようだった。
 気が付くと既に外は暗く、既に収束に向かっていたパーティーを片付けはじめる。
「お風呂沸いたわよ!クリームちゃん、先に辛お兄ちゃんと入って来なさいな。」
「入るー!辛お兄ちゃん!」
「俺と?!しょうがねーなー。行くぞクリーム!」
 辛はシンクに運ぼうとしていた皿を、直ぐ隣に居た餡に渡してクリームを連れてリビングを後にした。
「メロンちゃん、その後、お姉ちゃんと入ってらっしゃいよ。」
「うん、着替え取ってくる!いこ、お姉ちゃん。」
 メロンと共に、ロールも2階へと上がった。
 ロールは居候ではないが、今日はパン工場に泊まることになっていた。
「ドキンちゃんどうする?今夜は泊まってく?」
「バタコの部屋、空いてるなら泊まるわ。」
「空いてるわよ。お布団出さなくちゃ。手伝ってくれる?」
「いいわよ。」
 ソファに座って紅茶を飲んでいたドキンが、立ち上がった。
「菌、ゴメンね、ちょっと片付けお願い。」
「わかったのだ・・・。」
 そういうとバタコが握っていた泡のたっぷり付いたスポンジを受け取る。
「私も実験の片付けをしてくるよ。」
 ジャムが出て行った。
 ポツンと残されたリビングには、餡と菌、そして飯と食。
 急速にいつもの静けさを取り戻す。
「・・・子供が居ると賑やかだな・・・。」
「だね〜・・・。これ、毎日続くかなぁ?」
 餡が苦笑して呟いた。シンクの、水が流れる音がやけに大きく響いている。
「子供は賑やかなものですよ。ふふふ。餡や食や辛だって、メロンパンナちゃんくらいの頃はそれは賑やかでしたからねぇ。」
 しみじみと語る飯に、食と餡は顔を見合わせた。
「僕らが10歳の頃っていうと飯って・・・」
「20くらいか?オッサンだな!」
「おーや、そんなこと言っていいんですか、2人とも?」
 あくまでもにこやかな顔で飯が振り向く。
「つーか、うるさかったのって餡と辛だろ?」
「あれ、さっきの飯の話じゃあ食も入ってたじゃない!」
「お前は煩かったよ、毎日菌、菌ってな!」
 食が言うと、シンクでゴトンと大きな音がした。
 菌が、洗っていた皿を落としたのだった。わたわたと慌てて皿に傷がないか調べる動作がぎこちない。
「・・・分かりやすいやつ。」
 食と餡は目を合わせて噴出した。
 
 一通りの片付けが終わったころ、バタコとドキンも加わってソファに座って菌の入れたお茶をすすっているとクリームと辛が風呂から上がり、荷物を片付けていたのか、着替えを取りに行ったにしては遅かったメロンとロールがタイミング良くリビングへと戻ってきた。
 帰り支度をしていた飯と食を見て、クリームが2人にまとわり付く。
「食お兄ちゃんと飯お兄ちゃんは、泊まらないの?」
「ああ、俺は家に帰る。寝る場所が無いからな。」
 以前は食の部屋としてあけてあった部屋をクリームの部屋に、客室として使っていた部屋をメロンの部屋にあてがったのだ。空いている部屋はゼロだった。
「餡お兄ちゃんの部屋が空いてるじゃない。」
「餡の部屋では今菌が寝てるだろ。布団も足りないだろうし。」
 その言葉に、メロンがピクリと動いた。
「じゃあ、じゃあジャムおじさんの部屋!!」
「ぶっ!」
 食が飲んでいたお茶を噴出した。
「何が嬉しくてジャムおじさんと・・・」
 餡と辛が腹を抱えて笑っている。
「クリームパンダちゃん、食は毎日お仕事の帰りにココに来るから、毎日会えるわ。ね?」
 同じくクスクス笑っていたバタコに、なだめられて、うーん、と仕方なくクリームは頷いた。
 菌は餡の隣でお茶を飲みながら、こっそりとメロンを伺ってみると目がバッチリ合ってしまった。
 すぐに逸らして、居たたまれない気分になる。その時、隣で笑っていた餡がぐらりと傾いてもたれてきた。
「ちょ、餡・・・?お前、顔色が・・・。」
「・・・ちょっと、疲れちゃった。」
 まだ病み上がりの餡に、今日の賑やかさは疲れも倍増だったようで、目のふちが赤く染まっている。
「あら大変、菌、部屋に。」
 菌は頷いて、餡を支えながら部屋を出ようとした。
「あたしも付いてく!」
 言うと、メロンは餡の背中を支えながら2階へと一緒に上がってきた。
「大丈夫だよ、メロンパンナちゃん。ありがとう。」
 部屋に入りベッドに腰を下ろして、少し疲れた顔で餡がニコリと微笑んだ。
「認めないから・・・。」
「・・・え?」
 餡と菌が、ほぼ同時に聞き返していた。
「餡お兄ちゃん、私、菌なんて認めないんだから!」
 メロンは菌を指差して言うと、菌に向かってべ〜っと舌を出し、部屋を出て行った。
 
 呆然と立ちすくんでいる菌を見て、餡が笑った。
「認めないんだって・・・クスクス」
 いいながら、左腕で傍らに立っている菌を抱き寄せる。
「あ、餡・・・。」
 困惑した表情で、餡を見下ろす菌に、
「どうする、菌?」
菌は面白がっている餡の頬をぎゅっとつねると、軽く頭を小突いた。
 
 
 
 
やっと風呂に入り、辿り着いたベッドにもぐりこむ。
餡を伺うと、既に穏やかな寝息を立てて眠っていて、ホッと息をつく。
先ほど、メロンに言われたことを思い出した。
認めないって・・・何を・・・。
菌の心が不安で曇る。
だが、疲れが勝り、何を考えるまもなく、眠りに引きずり込まれた。
 
 
 
翌日、菌は戸惑いながらも、餡に散々文句を言われながらも、城へと戻ったのであった。
 
 
 
 
 
 
 
終  
 
 
 
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ああ、一/つ/屋/根/の/下/が終わってしまったあっァァ!笑
それはそれで、大いに惜しいなチクショウ!笑
 
ていうか、こんな終わり方でいいのだろうか(笑)
ていうか、登場人物多すぎ!もう、イヤ!笑
 
あ、この後、飯はもちろん、食宅にお泊りですよ♪
久々のご帰還ですしね。R指定な展開になってんじゃないですかね!(興奮)
 
 
そんな感じで、あんまり萌えどころが無くてゴメンナサイまぁオマケ話みたいなモンだから!
 
とりあえず、夜の覚めるとき、終わっときます!!
餡と菌の話は、もちろんまだまだ続きますんで♪
 
 
ココまでお読みいただき、ありがとうございましたー!
 
2007.12.07