穏やかな昼下がり。 町の商店街にヒーロー服を着た、必要以上に目立つ3人が居た。 通り過ぎる人々に時折手を振りながら、3人はジャムおじさんのお使いで、買出しに来ていた。 小さな粉屋の店先で餡と辛が待機、食は店内で買い物をしていると、 「あれ?」 不意に餡があらぬ方向に向いて声を上げる。 「ん?どうしたんだよ、アンパンマン?」 バタコさんに渡された買出しメモに目を通していた辛が顔を上げると、食が店から出てきたところだった。 「ん?どうかした・・・」 餡の視線の先を追った食が、一人の女の子に気づく。 「あれは・・・。」 「なんだ?あの子がどうかしたのか?」 見れば、肌は白くて頬は自然に赤く、髪は長くて黒色、女の子にしては少しきつめの瞳と眉が、逆に凛とした表情を出していた。服装は、白いフリルのブラウスに黒いフリルのスカート、可愛らしい感じだ。 「僕、行ってきます。」 餡はニッコリと告げながら、持っていた荷物を辛に押付けると少女に駆け寄った。 とっさに荷物を受け取ってしまった辛が餡に抗議しようと顔を上げるが、既に居ない。 「重っ、おい!」 「・・・いいよ、俺が持つから。」 溜め息を吐きながら食が辛をなだめ、餡の走った方向とは別方向に行く。 「何なんだよ、餡のヤツ。」 「あれ、菌だよ、辛。」 「げっ・・・。可愛いと思ったのに!」 「本当に女の子ならね・・・。」 食と辛は顔を見合わせると、餡のことは諦めて2人で買い物を続行した。 「やぁ、何してるの?」 「?!なっ、なんでっ・・・!?」 餡が話しかけると、近くに来るまで気づいてなかったのか、少女は目を見開いて驚いていた。 一目を引く少女と、人目を引くヒーロー。 周りに居た女の子たちがたちまちざわめく。 「きゃー、あの子誰よ?」 「餡様に話しかけられてるしー!」 反射的に逃げようとする少女の腕を、餡がすかさず掴んだ。 「はなっ・・・!」 「ここで名前呼ばれちゃまずいでしょ?君の正体バラしちゃうよ?」 耳元でささやかれてとたんに大人しくなったのを確認して、餡は改めて菌が覗いていた店を見た。カラフルな色の小さな粒が並ぶ。飴屋だった。 「何見ていたの?金平糖?へぇ、綺麗だね。」 「べっ、別にっ。」 腕を掴まれたまま、作り声で顔をそらす菌。 「おじさん、これ一袋下さい。」 「おや、アンパンマンじゃないか。オマケしとくよ!ほらよ!」 「わぁ、ありがとうございます。」 餡は構わず、菌の見ていた金平糖を買うと、店を出ようとした時、店内に居た女の子に声をかけられた。 「こんにちは、あの、アンパンマン?その子、だぁれ?」 「ああ、こんにちは。この子は・・・」 俯き加減に顔をそらして見られないようにしている菌を見て微笑むと 「この子はパン工場のお客さんだよ。迎えに着たんだ。じゃあね。」 言うが早いか、営業スマイルだけはしっかり振りまいて、少女の肩を抱いて店を出た。 肩を抱かれたまま商店街を出て、森の奥へと続く一本道に出た。 それまで通りかかる人人に呼びかけられる隣の有名人に、いつ正体をバラされるかと冷や冷やしながら歩いていたが、道はここで一区切りされていて、バイキン城までは知れず道を歩くのだ。 菌はやっと餡から開放されると思って肩にかけられた手を振りほどいた。 「君も買い物していたの?何々?」 「あっ、見るなよっ!」 持っていた買い物袋の中を見る餡を制するが、力と強引さではかなわない。 「マカロニ?ジャガイモ、タマネギ、夜ご飯なに?シチュー?」 「違うっ」 「えー、じゃあ・・・グラタン?」 「・・・・・・。」 「当たり?」 嬉しそうに問う餡に、菌は溜め息をつく。 「あ、当たったからってどうにもならないのだ!」 「ご馳走してよ?」 「は?!」 コイツ、立場わかってんのか・・・・・・。 餡は正義のヒーロー、対する自分はいたずらばかり働く悪の象徴。 そんな二人が同じ食卓でグラタンを食べるなんて、ありえない! 「この調子で歩いてたら日が暮れちゃうよ。飛んでいこう?だからね、ごちそうしてね!」 言うが早いか、餡は菌の身体を抱き上げると、空へ飛び立った。 有無を言わさず空へ飛び立ってから5分もしただろうか。 バイキン城が見えてきて2人して小高い丘の上に降り立った。 餡は菌の様子をこっそりと盗み見る。 頬が赤く見えるのは気のせいではないだろう。飛んでいる間中、菌は終始ダンマリだったけど、触れている部分から菌の鼓動が伝わってきた。 「着いたよ。」 「・・・あ、ありが・・・・・・。」 まるでお姫様を下ろすかのように丁寧な仕草で菌を降ろし、勝手知ったるバイキン城、 認証式のドアの前で覚えたコードを入力すると、自動で開くはずの扉が開かなかった。 「あれ、扉開かないよ?」 手をかけてガタガタやり始めた餡に、菌が慌てて制止した。 細身で華奢に見えても職業はヒーロー。馬鹿力の持ち主だ。このままでは扉が壊される。 「だぁぁ、か、鍵!鍵がかかってるから待てなのだ!!」 「鍵?鍵なんかつけたの?」 菌は胸元に下げていた鍵を取り出すと、鍵穴にさしいれた。 「・・・貴様が不法侵入するからだ。」 「ふーん。別に鍵つけても不法侵入しようと思えば簡単に出来るけどね・・・。」 「・・・・・・。」 にらみつけると目をそらして両手を挙げる仕草。 扉が開くと、餡はすたすたと中へ入る。 「ってゆーかぁ!お前帰れよっ!」 「グラタンごちそうしてくれる約束でしょー?」 はっと手を見ると、買い物した荷物は餡が持っていて向かう先は迷うことなくキッチンだ。 「そんな約束、俺様してないぞ!!」 家に入るなり、黒髪のカツラを手で引っつかみ脱ぐと、少し長めのツンツンの髪が現れる。 「えー、バイキンマンの嘘つきー。」 至って楽しそうな餡。 「嘘つきで結構なのだ!俺様嘘だーいすき!!」 「わかった、手伝ってあげるから一緒につくろうよ。ね?」 「は?!」 何でそうなるんだ?と相手にするのも疲れてきた菌が折れそうになったころ、 「ちょっとバイキンマン!!何騒いでんのよ?うるさいわねー!!」 「ド、ドキンちゃん!」 菌が慌てて餡の前に立って餡を隠そうとするが、体格で言えば餡の方が大きい。オマケに餡に隠れる気がない。 「あら、アンパンマン?」 「こんにちは。お邪魔してます。」 あっさり見つかり、お互い挨拶なんかしてる。 ドキンちゃんもドキンちゃんだよ、立場わかってんのかー?! 「あたしお邪魔かしら?でも今から出かけるところだったのよね。」 「えっ、出かけるって?!グラタンの材料買ってきたのに!」 ドキンちゃんのリクエストだったのだ。半ば無理矢理だったが。 「夜には帰ってくるわ。私の分も作っといてよ!じゃーね!」 「あっ、ちょっと・・・!」 「いってらっしゃーい。」 手なんか振ってる餡をキッと睨みあげるが、笑顔に飲み込まれる。 「2人きりだね、バイキンマンv」 「だ、だから何なのだ!!」 「とりあえず着替えておいでよ。それ、ドキンちゃんの服でしょ?汚したら怒られるんじゃないの?」 「・・・ぅ〜、ココでじっとしてろよっ!」 「ハイハイ。」 顔を真っ赤にして指差し、足音荒く自室へと戻る菌を見送り、料理の準備に取り掛かろうと買い物袋の中を探ると、先ほど買った金平糖があるのに気づき、取り出す。 これはもちろん、欲しそうに見ていた菌に、と思って買ったものだ。 淡くてカラフルな粒、小さくて尖ってて、怒ったり笑ったり、けれどその透き通る感じがまるで・・・。 「・・・バイキンマンみたいだね。」 こっそりと呟いて優しく笑った。 終 ******************************************************* だだだだだ、誰だこれ!w 餡はもっと鬼畜なのが好みです。話聞けよ!みたいなねw あ、話は聞いてないか・・・。 菌ももっとイケズなのが好みです。ツンツンしてる感じww あ、ツンツンはしてるか・・・。 ・・・・・・・・・微妙だなぁw 記念すべき1話目!!www 設定より先にアップしちゃいましたが^^; 餡は、料理が出来ない設定。 手伝うといいながら、エプロン姿の菌のケツ撫で回してるようなのがイイですね・・・www 2006.04.21 |