本 気

 
 
 
 ガチャガチャっ・・・!
 突然音を立てて鍵の外れたドアに驚いて、ガイは部屋の中央に突っ立ったまま、腰の剣に手をあてて入り口を振り返った。
「ガイッ!!!!」
「?! ル、ルークっ・・・!」
 元気いっぱいといった感じに飛び込むようにして部屋に入ってきたのは、よく見知った元・主だった。
 先ほど、ピオニー陛下の使いでバチカルの城へあがったときに、その姿を見たのは何ヶ月ぶりだっただろうか。
 略式の正装だったはずの服装は、いつもの格好に戻っていた。
「ガイッ!!!」
 ルークは嬉しそうに頬を紅潮させて、部屋の真ん中で突っ立っている自分に歩み寄ってきたかと思うと今度は頬をプゥっと膨らませた。
 怒っているのだと分かる口調と表情に戸惑うが、思い当たること多々あり、ガイの顔には苦笑いが張り付く。
「えーと、ルーク・・・?」
「ガイ!何でこんな宿屋に泊まってるんだよ!うちに泊まればいいじゃねぇか!!」
 やはり。
 雑用ともいえる用事でバチカルに訪れたとは言え、グランコクマのピオニーの使いとして来たのだ。
 翌日には帰国の予定という、ある意味強行スケジュールではあったが、宿も全て手配されていた。
 もちろん城内でも一番の部屋だ。
 だが、ガイはそれを全て断り、城下に降りて自ら宿を取った。(といっても、ナタリアの持たせてくれた親書のおかげで城下町の宿でも一番いい部屋だ。)
 城で宿泊となると、今はもう理解し、許しあったとは言え過去のしがらみがついて回る。忘れられるほどの過去では、まだ、ない。それが公爵家だと言うなら尚更だ。
 それに、城内だとどこに行くのも衛兵が付いてきて、そのつもりは無くても監視されているのと変わりない。
 久々に訪れたバチカル、道場や武器屋など、立ち寄りたいところも色々あったから、ナタリアに頼み込んで断ったのだが。
 目の前の赤毛の青年は理解できない、と言いたげに己を睨み上げている。
「あ〜・・・ルーク、色々用事があったんだ。城下の方が動きやすかったから・・・。」
「何だよ、用事って!俺よりも用事が大事?!」
「・・・え・・・」
「やっとの思いで帰ってきて、超久々にお前と会ったのに!!」
 ガイの胸元をつかみ、叫ぶように話すルークの目には見る見るうちに涙が溢れて今にも零れ落ちそうになる。
 ルークが世界を救うために姿を消してから、ガイはグランコクマへと渡っていた。
 ピオニーからは正式に爵位も授けられ、数年が経ち、奇跡的に帰ってきたルークと対面したときはもう、昔の様に剣を交えたりイタズラをして笑いあったりできる距離には無かったのだ。
 それでも何度かは顔を合わせることもあった。
 それはお互いが用命で城を訪れる時くらいで、だがルークには大勢の衛兵が付いて回るため、気安く話もできない。
 ガイとてその距離感を寂しく思わないことは無かったが、王族としての仕事をこなし、以前のわがままだけが先に立っていたルークが見違えるほどに逞しくなったことに満足しつつも、自分はもうお役放免かな、などと思っていたのだ。
 だが今、目の前に居る人物は、以前と全く変わらない、屈託無く笑いかけてくれるルークで。
 涙ぐんで睨み上げているルークを困ったように見つめていたガイが、ふと顔を緩めた。
「久しぶりだな、ルーク。」
 言うと、両腕をルークの背中に回してぎゅっと抱きしめた。
 背中を優しく、ポンポンと叩く。
 以前はすっぽりと収まっていたその身体は、背が伸び、肩幅も幾分広くなっていたがちっとも大きく感じられ無かった。
「ガイ・・・!」
 うるうると見上げてくるその瞳に、ガイは自分の下心に苦笑した。
 実は、ナタリアに頼み込んでまで城下に降りたのは、城に泊まるとこうして抱きしめることも叶わないから、という理由もあったのだ。
 だが、実際にルークが屋敷を抜け出してくることは本気で想定していなかった。
 バチカルに来るたびに、ルークと過ごした過去に立ち返ってしまう、 城内に居ると、何かと思い出してしまう、そんな自分に嫌悪したからだ。
 今回はどうだろうと思っていたが、港に着いたときに確信したため、城下に宿を取ることを決心した。
 だが、ガイにしてみれば願ったり叶ったり、というわけだ。仕組んだわけではないが、我ながらそんな下心に気づいていたたまれなくなる。
「・・・と、ルーク、屋敷を抜け出してきたのか?マギーが血眼で捜してるんじゃ・・・?」
「マギーには言ってきた。」
「えっ・・・」
 それで、ココに今ルークが居るということは、無断外出を何故止めなかったのか・・・。
「行ってこいって。」
「・・・?!ルー・・・ク、その荷物・・・?」
 ガイは、ルークの背中越しに、肩から提げていた小さなバッグに気づいた。
 見上げていたルークが顔を反らしたかと思うと、今度は耳まで真っ赤に染まった。
 ガイは身体を離し、ルークを覗き込んだ。
「・・・・・・ルーク・・・?」
「・・・・・・今日は俺もココに泊まる・・・。」
「・・・・・・・・・?!」
「・・・マ、マギーが、今日は帰ってくるなって・・・。」
 にっこりと笑う彼女の笑顔が、脳裏によぎった。
「・・・っ、ま、マギーのヤツ、ルークに何を教えて・・・っ」
「マギーが言ったからじゃない!コレは・・・俺の・・・意思・・・だから・・・っ」
 意を決したようにポツリポツリと話すルークに、今までに無いと言っていい程、ガイは動揺していた。
 突然のことで思考がまとまらない。
 愛しい人を抱きしめたいとは常々思っていたが、それがこのような形で実現するとは思ってもみなかった。
 考え込んでしまったガイを、ルークは恐る恐る見上げた。
 続く沈黙に不安が勝り、胸元を掴んでいた手をそっと離すと、
「・・・ガイが・・・迷惑じゃなければ・・・の話だけど・・・。」
泣きそうな顔で消え入るように呟いたのを、ガイは慌ててその震える手を握ってやる。
「ルーク。迷惑だなんて欠片も思わないさ。・・・ありがとう。」
 その言葉に、目を見開いたルークの瞳から、溜まっていた涙がこぼれた。
 涙をぬぐって、額にちゅっと口付けた。
 よしよし、と、昔よくそうしたようにルークの頭をなでてやる。
「・・・とりあえず・・・」
 ・・・まだ真昼間だし、部屋に入った直後だったし、と心の中で呟いて、何も用事を済ませていないことに気づく。
「・・・少し城下を歩きたいんだけど。久々に手合わせでもするか、ルーク?」
「やるっ・・・!!」
「よし。」
 庭で、よく手合わせをしていたときのように、2人は部屋を飛び出した。
 
 ルークの決心は恐らく本物であろう。
 突然振ってきた幸運?に戸惑うガイ自身が、用事を理由に心を落ち着かせるための時間を取った。
 そして、自分も決心するための時間を。
 
 まだ時間はあると思っている夜は、もうすぐそこにまで迫ってきていた。
 
 
 
 
 
 終  
 
 
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このガイルク文はこっそりとゆづかさんに捧げます・・・w
 
そしてココからはあとがきという名の言い訳・・・っ(くっ・・・)
 
 
やー、ついにやっちゃいました。やっちゃいました・・・!
俺の頭ン中、覗いてみるかぁっ?!って感じです・・・ぐはっ。
 
ゆづかさん宅で刺激を頂きまくって、文が!!文が生まれそうです!と呟いたのはいつのことだったか(遠い目)
やっと形になりました(汗)
 
こんな妄想が頭の中で繰り広げられていました(笑)
 
しかしアビスはクリアしたっきり、2週目をほんのちょこっとしただけで置いてあるので設定とかあやふやなんで、変なところあったらスミマセン・・・。
 
 
作中に出てくるマギーさんは、ゆづかさんのオリキャラでございますw
拝借しちゃった・・・!だってマギーさんのポジションはあまりにも萌えポジションで・・・!笑
 
ガイルクについて語ろうにも、ゆづかさんのガイルクに依存してるので、ゆづかさんちを見てもらった方が早い!
つうわけで、ゆづかさんちはコチラ→ClockWork
リンクページからも飛べますんでv
主従スキーな人は是非! 是非に!!(萌)
 
さて・・・この後、結局ガイは頂いちゃったのでしょうかね・・・?ウフフ・・・
ルークの決心も、ゆるぎないものだったのでしょうかね・・・? ウフフフ・・・(怪)
 
 
そしてアップする際に、あとがき追加・・・!
 
コレを書いた後も色々考えておりました・・・。ゆづかさんにご意見も伺ってみたりしたし・・・笑
私はコレが初夜の感じで書いてたのですが、ちょっと待てソレってあまりにも奥手すぎない?!笑 みたいな!笑
書いてから気づく・・・笑
あんだけ長い旅を一緒にしててよ? 宿屋にも何度も泊まっててよ?
もちろん、宿屋で2人きりのシーンもあったしよ?
オマエらさっさとやっちゃえよ!と思うからさ、やっぱりエンディング後に初めて!なんて有り得ないよね!
まぁこれも一つのお話、ってことで!!
 
うーん、コレはリベンジすべきなのかしら?笑
 
 
お読みいただき、ありがとうございましたv お粗末様でしたぁぁぁぁ!!
2006/11/15
 
 
 


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